或るニートのブログ ~映画と絵画の日々~

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映画「時計じかけのオレンジ」ディストピアムービーの極め

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アンソニーバージェスの原作を忠実に描いたキューブリックの名作。30年以上前に観たムービーだが記憶を頼りに寸評してみる。

近未来のイングランドがステージ。主人公の名はアレックス。未成年ながらなかなか頭の切れる不良である。オープニングはミルクバー。無機質に整頓されたマネキン人形たちが配置されている。仲間を従えこのミルクバーを根城に悪の数々を繰り返す集団。彼らの手にゆだねられたミルクの中には麻薬が散りばめられている。

自動車に箱乗りになって郊外に出向いた彼らは、現在でいうホームレスをこれでもかというほど叩きのめし意気揚々と闊歩する。そんなある日、ある高名な作家の家に侵入。ジーン・ケリーの「雨に歌えば」を口ずさみながら主を殴打し、妻ににじり寄る。レイプ。夫の目の前で輪姦される記号化された女。性的暴行もアレックス一団にとっては麻薬をたしなむのと同程度の余興に過ぎない。このシチュエーションは実話でアンソニー・パージェスの実体験から描写されている。

或る時はレコード店にて女の子二人をナンパし3pに興じるアレックスだったが、悪事は露呈し警察に身柄を確保される。

悪の限りに興じたアレックスは刑務所の厚生施設のモルモットに推挙され、ルドビコ療法という矯正の被験者となる。椅子の上に座らされ、瞼を閉ざすことのできない器具を装置され、ありとあらゆるバイオレンス動画を見させられる。目を閉じたくとも閉じられず恐怖にあらがうも空しく暴力的シーンに対峙させられた。アレックスの倫理観は強制的に矯正された。国家ぐるみの措置入院にもそれは似ていた。

 

満期を待たずにアレックスは釈放される。気の抜けた弱弱しい青年は町に戻る。昔の不良仲間にも疎んじられ暴力を浴びせられる。例の作家の家に行けば主は下半身不随となってなお生きていた。そしてそのわきにはマッチョな用心棒を侍らせていた。アレックスはその巨大な男を見るだけでからだを震わせた。ラストシーンは覚えていない。

国家ぐるみの矯正で実験に供されたアレックスは悪の一部を担いインデックス化された。国家はその報酬として善は悪に勝るというステレオタイプなひな型に個人をはめ込み正当化する。善意は悪意と二元論的に背中合わせな関係だが、この作品では悪の鷹揚を徹底的に斬首して一見称賛しつつも一方で睥睨している。惡の華はおしなべて摘み取られることが人類にとっての善行為とでも言いたいように。