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映画「イージーライダー」~病めるアメリカ、1200ccに賭けた自由

 


米国、メキシコとの国境地帯。ジェット機の轟音。済んだ青空。

ここでヘロインを換金したキャプテン・アメリカとビリーのふたりは自由を求めて1200ccのハーレーにまたがり腕時計を地面にたたきつける。時間から解放されたわけだ。

二人のバイクが火を噴いた。疲弊したアメリカの雄大な自然を背景にステッペン・ウルフの「ワイルドで行こう」がマシンの爆音とともに轟いた。

 

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イージーライダー

ベトナム戦争でくたびれ病んだ1,960年代末期のアメリカ。もはやパワフルな過去の栄光も萎えていた。自由を求める二人はアメリカ南部にさしかかって土地の者たちから差別を受ける。その象徴とする長髪とムードに怯えた彼らに弾かれたわけだ。モーテルに泊まることすらままならず、野宿。LSD

道すがら拾ったヒッピーの男性を連れてかれらの野営に。そこはフリーセックス、マリワナやり放題のコミューン。だがキャプテン・アメリカ、ビリーいずれにとっても肌の合うことはなく、ほどなく彼らとオサラバし、さらに旅を続ける。ロードムービーの序章は半ばにたどり着く。

小さな町のパレードに無許可で参加したふたりはブタ箱に入れられる。その暗渠で知り合ったジョージという弁護士。おのおの25ドルの交換条件で晴れて釈放。ジョージを道連れに三人での旅になる。星条旗をかたどったキャプテン・アメリカのヘルメット、ジョージのテキサス帽、そして新参ジョージのアメリカンフットボールのメット。やがて夜が訪れる。

ここはアメリカ最南部。野営を張った三人は「自由」について雑感を交える。

「自由なんか、ないさ」と、キャプテン・アメリカ

 


夜明け前に三人の足元をわさわさと複数の足音がざわめいた。棒でさんざん殴打される睡眠中のかれら。……ジョージだけが息を引き取った。

旅はつづく。ジョージに紹介された娼館「青灯亭」にハーレーをやすめる。
ニューオリンズの謝肉祭。浮かれるビリーとは裏腹に、なんとなく気合の抜けたキャプテン・アメリカ。娼婦ふたりを伴って郊外の墓場へ。LSDの幻覚が映画画面いっぱいに横溢する。シラフじゃやっていられない映像美。自由はすぐそこまで迫っていたかに思われた。

そんな旅も長くは続かなかった。南部のおやじたちは自由をシンボルに掲げるかれら二人を睥睨していた。田舎の長い直線を走っていた二人に向こうから走ってきたトラックから散弾銃が弾かれた。
ビリーのバイクが横転してかれも即死した。キャプテン・アメリカもまた同じ道に潰え去った。

ケネディー時代を経て美味しかったアメリカはすでになく、暗く垂れこめた暗雲に包まれたベトナム戦争後の大国。病んだこの国の向かう道程を二人がシンボリティックに演じていた。アメリカン・ニューシネマの傑作。

ちなみに、この映画で使われたキャプテン・アメリカのハーレーは1億4500万円でオークション落札されたという。1200ccの自由はこの二人に関してはあまりに遠すぎた。時間が必要だったのだ。